【理系考察】『アクアマン』と流体力学。あの最高速に必要なエネルギーはカツ丼何人前分か?

どうやら2022年12月16日に二作目の米国公開が決定している『アクアマン』。ジェームズ・ワンの続投を期待したいところだが、ともかくもアクアマンの能力について適当に調べていると、アクアマンの最高速は3000m/sであることがわかった。なんと、東京からサンフランシスコまで太平洋を経由して50分もかからない速さである。

He can swim at very high speeds, capable of reaching speeds of 3,000 meters per second[69] (10,800 km [roughly 6,700 miles] per hour) and can swim up Niagara Falls──Wikipedia(英語版ウィキより)

ナイアガラの滝も普通に登れるらしく、それだけで十分に面白い事実だが、今回はアクアマンの(きっと水中ではスーパーマンをも凌駕するような)最高速について考えていきたい。もちろんそれだけの速さで泳ぐアクアマンの前に立ちはだかるのは、言うまでもなく水の抵抗である。もうそりゃとんでもなく立ちはだかる。

(物語の半分以上は基本水中にいるシーンであり、なんとなく息が苦しくなってしまう)

『アクアマン』の最大の敵は”抵抗力”

我々は普段感じてもいないが、歩くだけで流体である空気から抵抗を受けている。この抵抗力を軽く押し返すだけの十分な力を人間はもっているため、涼しい顔をして歩くことができているが、移動する速度が増していけば空気の抵抗も顔を出してくる。

この動画で見られる、ソニックブームという現象を聞いたことはあるだろうか?ソニックブームとは超高速で飛行する戦闘機が発する轟音のことで、物体の移動スピードが高速になると起こる現象である。人間であっても超高速で動くことができれば、動画のようにソニックブームや衝撃波(ショックウェーブ)を発生させることができる。

さて、今回問題になるのは空気ではなく、水である。もっと設定を正確にするなら海と言ったほうが正しいだろう。その海で、アクアマンは3000m/sという水中での音速(1500m/s)を超えるような速度を叩き出してくるわけだ。1500m自由形の世界記録は14分31秒だが、アクアマンなら他選手が着水したときにはもうゴールしている。なんともやるせない大会である。

流体力学の基本的な式を借用しよう。物体が流体中を走るとき、受ける抵抗力の大きさは以下の式で計算できる。ρは流体の密度(つまり海水の密度)、Aは進行方向からみた物体(アクアマン)の断面積、vは速度で、あとの値は定数である。

この式のまま計算してもいいのだが、アクアマンの受ける抵抗力は○○N(ニュートン)!!と言われてもまるでピンとこないので、単位をエネルギーに換算しよう。そして最後に単位のジュール(J)をカロリー(cal)に換算し、カツ丼何人前かに変換していきたい。エネルギーとは(力)×(動いた距離)で与えられるので、1秒間あたりに動く距離である(速度)を(力)に乗じると、1秒間あたりに必要なエネルギーが算出できる。

ここからは計算タイムなので、(僕が)紙とペンと計算機を持って計算していく。さらになんだかんだ探してみればいい論文が見つかるもので、それも参照しながら計算を進めていくと、こんな結果が導出された

T(テラ)は10の12乗の接頭語である。女子高生が使う「テラかわいいじゃんそのバッグ」というのは「10の12乗かわいいじゃんそのバッグ」という意味である。本当に女子高生に使われてるのかはよく知らない。

(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

さて、0.9TWつまり1秒間に0.9Tジュールだけのエネルギーをアクアマンは放出しなければそれだけの速度で進むことができないということだが、これはカツ丼を何人前分食べなければ出せないエネルギーなのだろうか。計算が面倒なので、1Tジュールとして計算して、ジェイソン・モモアがカツ丼が大好きだとしよう。大体1人前のカツ丼は1000kcalなので、これで割ってあげれば‥25万人前という結果が得られる。「ミスター、適量かと‥‥」という声が聞こえてきそうだが、注意しなければならないのはこれが1秒の間に摂取しなければならないエネルギー量であるということだ。つまり1分間トップスピードで泳ぎたければ、1500万人前のカツ丼が必要になってくる。まとめると、カツ丼をK(カツドン)という単位にすればアクアマンが必要なエネルギーは一分間あたり1500万Kということになるわけだ。

うーむ、カツ丼1500万人分と言われても私を含めた誰もがピンときてないと思うのでほかの表現を当たろう。そうだな、たとえば『刃牙』に登場する中国拳法の使い手 烈海王が作ったあの14キロの砂糖水だったらどのくらい必要になるのだろうか。14キロの砂糖水なら大体12000kcalだろうから、アクアマンが摂取する必要のある砂糖水は30万キロ分である。これは1秒に摂取しなければならない量であり、この場合作り手である海王烈が死んでしまう。

それでもアクアマンは1秒間しか泳げない!

ちなみに、もしアクアマンがキャッチボールでもしたら大変なことになる。1Tジュールのエネルギーを運動エネルギーとしてボールに与えることができたら、そのボールは太陽系外にまで脱出することになるからだ。投げるたびにボールが消失するという、キャッチボールが全く成り立たないある意味悲しいヒーローなのである。そもそもアクアマンとキャッチボールするなという話ではある。

 

アクアマンは本当にどうやって泳いでいるのか?

(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

しかし毎秒カツ丼25万人前分のエネルギーが必要になってくるというなら、問題になるのはその莫大なエネルギーを一体どこから手に入れてるのかということだ。確かアクアマンの弟のオームは「人間は資源を枯渇させ、我々に戦争を仕掛けてくるのも時間の問題だ」と常々主張していた。よく考えると毎秒25万人分のカツ丼を摂取するおっさんが1人いるだけでも地球の食糧は音速で消えてしまうだろうに、あんなのが何千人もいたらとても地球の資源は保たないんじゃないだろうか。巨大ブーメランである。

ということで今度は何か別の、泳ぎ方を考える必要がある。要するに水の強すぎる抵抗が問題だったわけだから、水の抵抗を弱める方法を考えれば良いのだ。しかしこういうのは大抵、先人が既に解決しているもの。ロシアがソ連だった時代開発された「シクヴァル」という兵器にここで登場してもらおう。

泡を出しながらアクアマンは進む

バリー・パーカーの「戦争の物理学─弓矢から水爆まで兵器はいかに生みだされたか」というなんともコアな本に分かりやすい説明が載っていたので、少し引用しよう。

魚雷では「スーパー・キャビテーション」という効果も役立てられている。物体が水中を高速で移動すると、物体の後方の圧力が下がり、その結果、気泡が生じて物体を包み込むという現象だ。水中を移動する魚雷では、水から受ける大きな抗力をいかに減らすかが課題だが、魚雷が気泡に包まれると抗力が大幅に小さくなる。このため、スーパー・キャビテーションによる気泡が生じるように設計されている魚雷もある。「戦争の物理学─弓矢から水爆まで兵器はいかに生みだされたか」

 

このスーパー・キャビテーションという効果を使えば水の抵抗力を減少させることができる。シクヴァルというロシアの兵器もこのスーパー・キャビテーションを使ったもので、時速370kmを超えることができる。それでは、アクアマンの泳ぎ方もこの効果を応用した泳ぎ方だとするのはどうだろうか。つまりアクアマンは特殊な泳ぎ方(あるいは特殊な皮膚を持ち合わせている)をすることで、泡を発生させ、泡の中に包まれるように進むことでスーパー・キャビテーションを引き起こし、水の抵抗力を弱めているのである。高速で泳いでいれば勝手に泡は発生するので、場合によっては全身の体毛を使って泡の流れを調整したり、口や鼻の穴から泡を出して全体の泡バランスを調整することもあるだろう。少し恐ろしい泳ぎ方だ。

 

まとめ

(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

アクアマンが潜水艦を下から押して持ち上げてしまうシーンが予告編にもあったが、今回考察したアクアマンの放つエネルギーのことを知れば、それでも控えめな出力だったことが分かる。アクアマンが高圧の環境下で一体どうやって耐えてるのか、水中での呼吸は人型でも行えるのか、などなど「アクアマン」に関する疑問は尽きそうにないが、なによりアクアマンには絶対に喧嘩を売ってはいけない。なぜなら一瞬であなたを太陽系外にまで吹き飛ばす力を彼は持っているのだから。

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