『CUBE/キューブ』登場人物の平均IQは2。なぜ素因数分解が出来ないのか、レヴン。

「目的が分からない」というのは、やはり人間の根源的な恐怖に働きかけるのだろう。その観点から沢山のホラーやミステリー作品が作られた中でCUBE/キューブ』は、その洗練されたプロットの単純さが掻き立てる異様な質量の恐怖が他を圧倒する実力を持った映画である。

CUBE/キューブ』を初めて観たのは確か、中学に入ったばかりの頃である。その当時、既に小学校を卒業していたわけであるから素因数分解は知っていた筈だったが、映画そのものの構成に誤りがあるとは思ってもみなかったわけで、数字のくだりを特に考えずに作品を楽しんだ。流石にまだ年端もいかぬ子供には刺激が強すぎたのか、その後親には『CUBE/キューブ』について触れないように頼み、避けるようにしてきた。

今再び観てみると、プロットの嫌味の無さを改めて感じたが、それとは別に登場人物が行う奇行にミステリー用の真顔を保っておられず、CUBE/キューブ』は一瞬でコメディ作品と化してしまった。ただそれでもやはり巧妙に作られており、なんとなく観ているだけでは誤りに気づけないかもしれない。

目が覚めると謎の立方体(CUBE)に捕らえられていた数人の男女。誰が何の目的で閉じ込めたのかも分からないまま、彼らは死のトラップが張り巡らされたこの立方体からの脱出を試みる。(Wiki)

さて、『CUBE/キューブ』を観ながらちょっと内容にツッコミを入れておきたいと思う。単純に我慢できないので。いや、面白いんだけどね話は。

645…違う、342…違う、素数じゃないわ』──レヴン

CUBE(立方体)に閉じ込められた彼らが脱出するために必要だったのは、「罠がある部屋の判定方法」だった。脱獄王が酸洗顔されるなどある程度の実験と失敗を経て、3つの数のうち素数があると、その部屋は罠」という判定法を編み出すレヴン。レヴンは数学科の学生で、数学が得意(この時点では)。そのため、素因数分解が出来る。すごい、レヴン!すごいぞ。

まず素因数分解の意味をおさらいしておこう。素因数分解は「数を素数に分解すること」を意味する。素数とは「その数自身と1のみを約数に持つような数」のこと。つまり、素数は2,3,5,7,である。

72の素因数分解は$$72=2^3×3^2$$

である。つまり72を掛け算の形に分解すると、23個、32個必要、ということだ。分解された後の要素11つを「因数」という。数を「素数」の「因数」に分解するから、「素因数分解」と呼ぶわけだ。数ではなく、式を分解するのなら、分解先の要素が素数になる保証はないので(というより式なので)、単に「因数分解」と呼ぶ。

さてと、レヴンの発言は何が可笑しかったのか。遅い、遅すぎるのだ。645が素数であるかどうかを判定するのに2秒くらいかかってる。下1桁が50の数は必ず5の倍数である、というのは小学生でも分かる事実なのだから、645という数字を見て素数かどうかを考える時間は1秒も必要ない。レヴンはこのとき、何を考えていたのだろうか。645(う~ん私的には大化の改新しか思い浮かばないな)素数じゃないわ」くらいはいけるだろうし、烈海王のカレーの理論に従えば645味わっていたのかもしれない、いやそれは意味が分からないが、何にせよレヴンの奇行その1である。

なお、素因数分解には「一意性定理」というものがある。つまりある数を素因数分解した先は常に1種類であり唯一なものなのだ、ということを数学的に証明することが出来る。すなわち、「素因数分解の仕方」によって罠のあるなしを混同することはない。

法則の変更について

最初「素数があったら罠」という仮説が上手くいっていたため調子に乗った一行も、ある時点で痛い目に合う。真の法則(正しい判定法)は「因数が1種類の数があったら罠」だったのだ。例えば先ほどの例の72であれば、因数の種類は23の二つ。32ならば、2^5なので因数の種類は2の一つ。つまり罠だということだ。(実際には3桁の計算をすることになる)

この部分は話の作り方として、かなり上手い。なぜなら下図のように、「素数があったら罠」は「因数が1種類の数があったら罠」を覆うような集合だからである。

つまり「因数が1種類」「素数がある」は成立するが、「素数がある」「因数が1種類」は必ずしも成立しない。このため、最初の仮説の誤りに気がつかなかったのは仕方がない。レヴンのせいではないし、「素数があったら罠」という仮説の方が自然な発想であるから、失敗によって気づくというのもとても上手く出来た構成である。逆に不思議だ。

『デカルト…!デカルト座標だわ3次元の位置を表すのに使うのよ』──レヴン

この発言は間違いではない。デカルト座標とは、一般的に知られているただの座標である。デカルトが考えたらしい、から今日ではしばしばデカルト座標と呼ばれる。

何にツッコミたいか。まずイタい、とてもイタい。そもそも「デカルト座標だわ」と叫ぶ数学科の学生は存在しない。わざわざ他との区別感を含むような固有名詞を叫ぶなら、それ相応のレア度がある概念に限る。せめて「光円錐座標」とか「極座標」とか。マツダのロードスターを見て改めて「あ、スポーツカーだね」と言う感じのダサさに似ている。

ところが、この後の発想は称賛に値する。部屋の数字が座標に相当することに気づいたレヴンはその部屋の総数が、26×26×2617576個であることに気づく。(これは外壁の厚みを考慮した計算になってる) この辺りの計算は速く、なかなか普通の人には出来ない桁の計算だ。そして死体のある元の部屋に戻ってしまったことで、CUBEの移動に勘付く。部屋の移動について考えを説明し出すレヴン。部屋の数字は初期状態の座標値を示しており、そこから一定の法則に従って部屋が動くという。その法則は「順列組み合わせ」とのこと。え?

「順列」と「組み合わせ」は別の概念である。この2つは決して交わることがないのに、レヴンは「順列組み合わせ」という謎の概念を突如提唱する。彼女の「順列組み合わせ」理論によると、部屋の移動規則は以下のようであるらしい。数(abc,cde,fgh)に対して

初期位置: (a+b+c, d+e+f, g+h+i)

1回目の移動後: (a+b+c, d+e+f, g+h+i) + (a-b, d-e, g-h) = (2a+c, 2d+f, 2g+i)

2回目: (2a+c, 2d+f, 2g+i) + (b-c, e-f, h-i) = (2a+b, 2d+e, 2g+h)

3回目: (2a+b, 2d+e, 2g+h) + (c-a, f-d, i-g) = (a+b+c, d+e+f, g+h+i) =初期位置

ふむ、いやなんで気づけたのこんなん。凄いじゃん、いきなり凄すぎるじゃん。

この発想がどこから来たのかが不明すぎる。645が素数かどうかもすぐに分からないのに、突如閃くレヴン。「数字を思い浮かべてください、その数を2倍して4を引いて」とか言われて従うと最終的に元の数に戻るみたいな心理マジック(?)に似ているがな。

『解読にどれだけの変数が必要か分かってる?』──レヴン

今作の中で一番の迷言である。「お告げは出た?(計算出来た?)」と聞いてくるドクターに対しキレたレヴンが放った一言。そして終盤、ついにレヴンは3桁の数の素因数分解が天文学的数になると発狂。彼女の頭の中で行われている素因数分解はきっと我々のものとは異なるのだろう。

ここで一応はっきりと言っておきたいのは、3桁の素因数分解は小学生でも出来る、ということ。暗算で、ということなら私だったら精々5桁程度が限度である。素因数分解が得意、という友人は20桁まで暗算で出来るそうだ。もちろん普通の人にはそこまで出来ないが、小中学校の算数(数学)が分かっている人なら、3桁の素因数分解は難なく出来るだろう。

レヴンはそれを天文学的場合の数に達する、途方もない計算だと主張する。どうしたレヴン、いきなり。645が素数だと気づくのに2秒くらいかかってはいたが、それでも計算出来てたじゃないか。突然のIQ低下である。レヴンが発狂していた567の素因数分解は3^4×7である、それで終わり。

そして「あと2回の移動でブリッジにつながるの 急いで!」とレヴンは言うが、ここも不思議っ子発言の1つだ。「順列組み合わせ」の理論によれば、通常3回の動きで元の位置に戻る、急ぐことはない。

調べてみると、レヴンがなぜここまで奇行を繰り返すのか色々な角度から考察している映画ブログは結構ある。読んでみると、中には「レヴンは素数を覚えているんじゃないだろうか」と主張しているものが幾つかあった。

なるほど、もしかしたらそうかもしれない。レヴンは暗記数学界のホープだったのだ。もうとりあえずなんでも覚える。素数?意味は分からないが、覚える。ピタゴラスの定理?何のことか知らんが、全部のパターンを覚える。このようにレヴンは数学をこなしてきた、ある意味とんでもない奴だったのだ。

CUBE/キューブ』という作品から我々はある教訓も得ることができる。数学は暗記じゃない、理解するものだ、という重要な教訓だ。ちゃんと素数が何なのかを理解しておかないと3桁の素因数分解をするたびに毎回発狂することになる。他の数学概念にしてもきちんと理解しておきさえすれば、その場で計算することが出来るので、『CUBE/キューブ』でもきっと生き残れる筈だ。

僕が設計者ならどこかの部屋に57という数字を入れたいところだ。数学者を放り投げたらトントン拍子で途中まで進むが、57という数字を見て歩が止まるだろう。理由は「グロタンディーク素数」で調べてみて欲しい。

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