【理系考察】「アベンジャーズ/エンドゲーム」と量子力学。タイムトラベルは本当に可能なのか?「5時間=5年間」とは一体どういうことか?

さて、今回は『アベンジャーズ エンドゲーム』で触れられた”量子力学”の部分について突っ込んでいきたい。内容に触れずに考察するというのは土台無理な話なので、ウルトラネタバレ全開で話を進めていくのをここで注意しておく。まだエンドゲームを観てない人でネタバレを聞きたくないという人は、観てからまた戻ってきてほしい。

さて、結論から言うとトニーはタイムマシンを作り上げてしまった。大体SFの文脈でタイムマシンと言うと、普通ワームホールだとか何だとかが関係してきて、アインシュタインの名前が出てくるのが常である。タイムマシンの代名詞である「デロリアン」について僕が前に考察したときも、アインシュタインの特殊及び一般相対性理論について解説しただけで話は閉じていた。

BTTFをアインシュタインの特殊相対性理論で考察する。人類にタイムマシンは作れるのか?

しかし、今回は相対性理論の領域でタイムマシンを作り上げたのではなく、アントマンに関係した量子力学の領域でタイムトラベルを成功させたのだった。アントマンの言う「量子世界」があまりになんでもアリだなあと思った人も多かったかもしれない。エンドゲームの映画としての出来は言わずもがな最高の2文字だったことは間違いないが、「本当に量子世界に行けばタイムトラベルなんて出来るの?」という疑問は今作を観るだけでは解決しなかったはずだ。

ということで今回は「量子世界と時間」というテーマで、エンドゲームの諸現象をいくつか考えてみたい。もちろん「タイム泥棒は可能ですよ」なんてここで言ってる暇があったら論文にして学会で発表してるので、そう簡単に上手くいくわけはないのだが、それでもアントマンが「量子世界では時間の流れ方はまるで違う」と言ってたのは的外れでもないのだ。「光の速度に近づくと時間が遅くなる」という相対論の現象のように、身体にスモールライトを当ててどんどんと小さくなっていき、原子の世界まで到達すると時間の流れが変わっていく──なんてことは起こり得るんだろうか?

「量子論の世界」入門

量子力学でとても有名な実験の1つに「二重スリット実験」がある。もし二重スリット実験を聞いたことがなければ、是非この動画を見てほしい。人間の感覚とは全く合わない非常に不思議な現象である。

スコット(アントマン)がサノスの指パッチン以降5時間ほど閉じ込められた量子世界では通常の物理法則が成り立たない。手からボールを離したら下に落ちるとか、そういうレベルの物理法則が成り立たないのである。インターステラーの解説で相対性理論の「要請」について話したように、原子レベルの世界の物理学「量子力学」にも「要請」が存在する。上の動画でも触れられたように、原子の世界では「観測」という行為が非常に重要となるのだ。

二重スリット実験を使って量子力学の基礎概念を説明しても良いが、ここは手っ取り早くシュレーディンガーの猫の例を出そう。僕のブログを読んでいる方は博識な方が多いので、知っている人も多いかもしれないが概要はこんなものである。

まず、のあるを用意して、この中にを一匹入れる。箱の中には猫の他に、放射性物質ラジウムを一定量と、ガイガーカウンターを1台、青酸ガスの発生装置を1台入れておく。もし、箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すと、これをガイガーカウンターが感知して、その先についた青酸ガスの発生装置が作動し、青酸ガスを吸った猫はぬ。しかし、ラジウムからアルファ粒子が出なければ、青酸ガスの発生装置は作動せず、猫は生き残る。一定時間経過後、果たして猫は生きているか死んでいるか。(Wikipediaより引用)

もちろん猫は「生きているか」、「死んでいるか」の2択に決まっている。これは疑問を挟む余地がない事実である。ただ我々が原子の世界の住人だった場合このような考え方だと現象を上手く説明出来なくなってしまう。そこで考案された考え方が「量子力学」である。

結論から言うと量子力学は猫の生死を確認する前は、猫を「死んだ」状態と「生きた」状態の重ね合わせた新しい状態として捉える。50%で生きてる、50%で死んでる、わけだから何回も同じ実験を繰り返したときそのような統計的に混合した状態になるだろう。だから箱を開けて猫の生死を確認しなかったとき、猫の生死はどちらかに決まってるはいるが、半分生きてる半分死んでると統計的に考えても問題なさそうである。コインを投げる前に、表と裏が統計的に混合した状態と考えても現象はキチンと予測できる。そういう意味で猫の生死を共存させる、わけではない。

注意してほしいがこれは誤った量子力学の捉え方である。シュレーディンガーの猫の例を聞いて「生死の重ね合わせ」というものをこのように理解してはいけない。箱の中身を確認する前、猫は生きてもいないし、死んでもいない。生死の重ね合わせが起こった全く新しい状態にあると考えるのである。そんなものは全く想像出来ないと思われるかもしれないが、それで全く正しい。我々の常識が成り立たない理論の説明をしているのだから、明確な想像が出来なくて良いのである。実際の量子力学ではこの「状態」をベクトルとして扱う。つまり異なる2状態を足すと、新しいベクトル(状態)が…?

さて、そんな重ね合った状態になった猫は箱を開けるとどんな状態として観測されるのだろうか?重ね合わせた状態が観測されるのではなく、重ね合わせる前の2状態のどちらか一方が必ず観測される。この考え方を射影仮説と呼び、重ね合わせた状態から1つのハッキリした状態に落ち着くことを「収縮」と呼ぶ。

重要なことはこのような考え方をすると原子レベルの現象が上手く説明できるということであり、それが我々の感覚と合っているかどうかは全くどうでも良いということである。量子力学は確率を使って現象の予測を行う。シュレーディンガーの猫の例はあくまでアナロジーの域を出ないが、このような考え方が実在論的なものか認識論的なものかは各々の思想によって分かれるところだろう。量子情報理論では認識論的なコペンハーゲン解釈を採用している。波動関数などの実在を考えるのではなく、対象系と観測系の合理的な分離が可能であるときに、認識論的な科学を試行する。

もちろん量子力学には他にも様々な一風変わった「捉え方」があるが、タイム泥棒について考える上で大事なのは「重ね合わせ」と「収縮」の概念である。それではこれを踏まえて、量子力学と時間という一大テーマに移ろう。タイム泥棒は可能なんだろうか?

量子力学と時間──量子ゼノン効果

ゼノンのパラドックスというのは知ってるだろうか?放たれた矢は次の瞬間にはちょびっと進み、そしてまた次の瞬間にはちょびっと進み‥と動いていく。この”瞬間”の時間をどんどん小さくしていけば、矢は止まる。結局全ての瞬間で矢は止まることになるから、矢は止まって動かないはずだ、というものだ。エレア派のゼノンの名を取って「ゼノンのパラドックス」と呼ばれている。アキレスと亀の例でも同じである。

© MARVEL/© WALT DISNEY STUDIOS MOTION PICTURES

当然こんな現象は現実に観測されるはずがないが、量子力学では一定の条件のもと似たような現象が観測されることがある。それが量子ゼノン効果と呼ばれるものだ。アントマンが「量子世界では時間の流れ方が異なる」と言っていたのも、この効果のことだと思うと辻褄があう。

再び原子の世界にいることを考えよう。最初aという状態にいたアントマンが、時間経過により次の瞬間にはbという状態に移るとする。ここでいう「状態」とは何でも良い。そうだな、適当にアントマンが両手を組んだ状態をa、両手を広げた状態をbとしよう。時間経過により量子状態がaからbへと移ることを、量子力学の言葉で「時間発展」と呼ぶ。普通、特に問題がなければ原子の世界でも同じように時間発展がなされていくが、観測という行為が挟まれると、量子ゼノン効果が顔を出してくることがあるのだ。

量子力学では上のような記号を使って書いたりする

状態aから状態bにアントマンが時間発展するとき、途中でアントマンの状態を「観測」すると時間発展が抑制され、状態aに引き戻される。射影仮説のところで説明したように収縮が起こるようなイメージを持つと良いだろう。このような量子ゼノン効果の下だと、アントマンは時間の経過を気づくことが出来ない。ある状態に固定されたアントマンが次に時間を感じるのは、観測の効果を逃れ、次の状態に時間発展したときに限るのだ。

この効果は他に「番犬効果」、「見ている湯は沸かない」なんて言われることもある。また、わざわざ実際に観測をしなくても、比喩的に言えばアントマンの周りに色々モノを置いたりして状態が1つに指定されるように(つまり観測と同じ効果が期待される)すれば、量子ゼノン効果は発現することが分かっている。

つまり状態の遷移が著しく抑制されたアントマンにとっては5時間の経過としか感じなかったわけで、元の世界では5年ほどの月日が流れてしまっていたというわけだ。スコットが言っていた「量子世界では時間の流れ方が全く違う」という真の意味はこんなところだ。

結論─タイム泥棒は可能か?

トニーが開発したタイムマシンの原理は私程度の頭では正直言って全く分からないが、根底の部分では似たような考えから出発したのかもしれない、と言える程度である。しかし冒頭でも言及したが、今作が非常にSF面としてユニークなところはタイムトラベルの方法を、ワームホールといった一般相対性理論を基盤にした宇宙規模の壮大な方法や、もしくはデロリアンといった人間スケールのタイムマシン技術で可能にしたわけではなく、アントマンに根ざした量子世界に行くというまた一風変わった方法を採用した点である。

量子世界で流れる時間というのは、基本的には私たちのスケールの世界で流れる時間と変わらないものである。しかし一定の条件が満たされると今回紹介した量子ゼノン効果のような非常に特異な現象が発現することがある。トニーの頭を持ってすればこのような量子世界の特異性を利用して、過去に戻るような方法を発明することが可能だったのだろう。

「固有値(Eigenvalues)」や「プランクスケール」といった量子力学の代表的な用語が今作では多く使われていて、それも今記事で解説してしまおうかと思ったがちょっと長くなるのでとりあえず今回はここで終えよう。次回はエンドゲームに登場した科学用語を1つ1つ解説していく。タイム泥棒に関係するような用語もあれば、爆裂意味不明な使い方をしている単語も多くあった。次回はそうした小ネタの解説を行なっていきたい‥!

 

「アイアンマン」「ハルク」を当時11歳かそこらのとき劇場で観たのを覚えているが、MCUと共に歳をとっていき、こうして10年間の旅の終幕を実際に劇場で見届けられたのをなにより感謝したい。アイアンマンを観て、トニーのような人間らしい科学者に憧れたこともあった。子どもの頃の純粋な憧れを抱いていた大きな存在が、目の前でその偉大な歴史とともに炎がかき消えていく姿は非常に美しいものであった。こうした気持ちに浸ることが出来たのは、小さい頃から映画館に連れて行って、映画という文化を教えてくれた母親のおかげであり、なによりも感謝したい。

さて、それではまた次回会おう!

1 個のコメント

  • […] 3名無しがお送りいたします。2019/09/04(水) 09:18:20.45ID:pVPz1MBX0 サノス引っ張り過ぎててつまらんよ 15名無しがお送りいたします。2019/09/04(水) 09:23:05.99ID:pVp3eViLa キャプテンアメリカがダンスしに行く話だろ 11名無しがお送りいたします。2019/09/04(水) 09:21:11.86ID:wzOawC8e0 何でピム粒子で小さくなると時間を過去に戻せるのかよくわからん 31名無しがお送りいたします。2019/09/04(水) 09:38:24.91ID:SBjNU2uG0 >>11 https://joshuascience-movie.com/endgame-quantummechanics/ […]

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