【理系マジレス】『エンドゲーム』 トニーの言う通りに計算したらこうなる。メビウスの輪に閉じ込められた波動関数のエネルギー固有値を計算する。─物理学コラム─

さて今回は久しぶりの投稿ながら、あまりにも唐突な内容を扱うのでとりあえず「コラム」と題しておいた。そう、今回のテーマは(題した通り)、エンドゲームで天才トニー・スタークがタイムマシンを開発しようとしていたとき、ダメ元で「メビウスの輪」を使って量子力学的な解析を行ったところ、当初の予想を反して上手くいってしまい見事タイムマシン理論の確立に成功をしたあのシーンの考察である。当該シーンは以下で観れる。

トニーほどの天才であってもタイムマシンの開発成功にはやはり驚くらしく、ちょっとかわいらしい。残念ながら当該シーンは上記の英語音声のものしか見つからなかったが、ここでトニーが言っていることは「メビウスの輪に閉じ込められた波動関数のエネルギー固有値を計算してくれ」ということである。

これを全くの1から説明するのは不可能に近いが、実は大学で物理学を専攻している学生にとってならば、在籍して2~3年経てば解けるようなレベルのものである。そしてそれは逆に裏を返せば、これがタイムマシンの理論を与えるものではないことを示してしまうが、そうはいうもののトニーの言っているように真面目な計算をしてみるとこんな感じになるよ、という理系のめんどくさいマジレスのエクストリーム版を提供しよう。いつもならば使用する数式には非専門的な解説をつけるようにしているが、今回はハナから諦めているので同僚に説明するように方程式を解いていくことにする。なんとなく雰囲気を楽しんでもらうための数式セラピーのようなものということにしよう。

さて、まずメビウスの輪に束縛された波動関数をどのようなモデルを使って解析するかを考えることから始めよう。メビウスの輪は適当な長方形の紙を用意して捻りながら輪っかを作れば、誰でも簡単に作ることができる。そこで以下のように2次元座標(x,y)を用意しよう。この青い紙が、メビウスの輪を作るための長方形の紙である。

このような明らかな対称性があるときは、座標設定の際もその対称性を崩さないように気をつけるとよい。y方向の紙の長さを上図以外の形で設定すると計算がひどく煩雑になったりする。つまり0~Lのようにしない方が良いだろう。

メビウスの輪に束縛された波動関数の境界条件は以下である。

$$ \Psi \left(x,\frac{L}{2} \right) = \Psi \left(x,-\frac{L}{2} \right) = 0$$

$$ \Psi \left(x+W ,y \right) = \Psi \left(x,-y \right) $$

x方向には少し特殊な周期的境界条件を課しているように見えるかもしれないが、これがメビウスの輪の「表と裏が無くなる性質」を反映している。任意の点\(x\)から2\(W\)だけ平行移動すると元の位置に戻る仕掛けになっている。さて、このような境界条件の下で系のSchrödinger方程式を解こう。2次元系であるから、Hamiltonianは

$$\hat{H} =-\frac{\hbar^2}{2m} \left(\frac{\partial ^2}{\partial x^2} +\frac{\partial ^2}{\partial y^2} \right)$$

とかける。すなわちSchrödinger方程式は

$$-\frac{\hbar^2}{2m} \left(\frac{\partial ^2}{\partial x^2} +\frac{\partial ^2}{\partial y^2} \right) \Psi (x,y)=E \Psi (x,y)$$

である。右辺のEはこれから求めようとしているエネルギー固有値を表している。このような微分方程式を解く場合、波動関数を変数分離した形で解くのが常套手段である。今扱っているような境界条件は端点で関数値が0となるような斉次条件なので、ともかくも変数分離して数学的な問題が発生することはない。ということで、

$$\Psi (x,y)=X(x)Y(y)$$

という変数分離を採用しよう。また、例のごとく

$$ k_x = \frac{-2m E_x }{\hbar^2} $$

$$ k_y = \frac{-2m E_y }{\hbar^2} $$

とおく。変数分離の結果解くべきSchrödinger方程式は、それぞれ単純な調和振動型の微分方程式に帰着するので、その解は三角関数の線型結合としてかける。その結果波動関数は以下の通りになる、というのは有名な話だろう。

$$ \Psi (x,y) = X(x)(y) = (C_1\cos (k_x x) + C_2 \sin(k_x x) )(C_3\cos (k_y y) + C_4 \sin(k_y y))$$

この波動関数に対し境界条件を課そう。実際のところそれはただの計算なので、全く簡単である。自分はお風呂に浸かりながらこの問題について考えていたが、この問題の難しいところは取っ掛かりの境界条件の書き下しの部分にあると思われる。

学部生が期末試験前に練習するこういった波動関数を決定する問題は、大抵の場合ポテンシャルや境界条件は与えられるものであり(井戸型ポテンシャルなど)、その下でー方程式を解くようなものが多いわけだが、この題材は境界条件を上手く数式に落とし込まなくてはならないから、その辺りが量子力学の初学者には新鮮で面白い題材だと感じられるように思える。流石トニー、未来のある若い物理学徒への教育的配慮を最期にみせてくれている(違う)。

さて、境界条件を波動関数に課すと、2つの場合分けが発生する。それに注意してエネルギー固有値を計算すると

$$ E_{nl} = -\frac{\hbar^2}{2m} \left[ \left(\frac{2l\pi}{W} \right)^2+ \left( \frac{(2n+1)\pi}{L} \right)^2 \right]$$

または

$$ E_{nl} = -\frac{\hbar^2}{2m} \left[\left(\frac{2(l+1/2)\pi}{W} \right)^2 + \left( \frac{2n\pi}{L} \right)^2  \right]   $$

という結果が得られる。つまり、この最後の結果部分がトニーの「メビウスの輪に閉じ込められた波動関数のエネルギー固有値を計算してくれ」という要求に対する答えである。これはタイムマシン理論の確立を意味するような解なのだろうか?もちろん、残念ながらそうではない。ただそうではなくとも、量子力学の1つの演習問題として十分に機能していることが解いてみて分かったので、思わぬ収穫があったといえる。

ちなみにエンドゲームではアントマンの力を借りて、量子力学的なタイムトラベルを成功させていたが、この量子力学を用いたタイムトラベル、SFという観点からするとなかなかユニークである。やはり大抵の場合相対性理論が絡んだタイムトラベル理論をSFでは語りたがるので、そういう意味でちょっとレアなタイムトラベルが観れるエンドゲームが私は好きである。一応前に量子力学と時間というテーマで「量子ゼノン効果」という現象を使って、アベンジャーズが行ったタイムマシンを考察している。

【理系考察】「アベンジャーズ/エンドゲーム」と量子力学。タイムトラベルは本当に可能なのか?「5時間=5年間」とは一体どういうことか?

それでは流石に連載の方を書き進めていかないと‥頂いたコメント全て読んでいます。頑張って書き進めます‥!

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