【コラム】『ヘレディタリー 継承』娘チャーリーの首は本当に電柱でモゲるか。

当然のことながら、車から顔を出した人間が電柱に激突することで首を切断するのに必要な力(ニュートン)ないしは圧力を調べてみても、そんな論文は見当たらない。「電柱 首 切断」と恐ろしい言葉で検索したとしても、ヒットするのは「首なしライダー」という亡霊の話や、NTTで開発された「電柱切断機」の商品紹介ページである。「電柱切断機」は11,680円でレンタル可能らしく、意外に安い。

さて、いつものように8000字とか1万字に渡る字数で「チャーリーの首切断問題 剛体力学のその先へ」なんて圧倒的非需要な文章を書くわけにはいかないので、今回はサラッと終わらせるのを目標に考察していこう。『ヘレディタリー 継承』をご覧になった人達の多分約20%くらいが思ったであろう「チャーリー首の骨ちょっと弱くない?」問題を解決するために、まずはその必要な力とやらを上手いこと計算して、状況のモデル化を行なっていこう。ところがどっこい、この必要な力を計算するのが案外厄介なのだ。

なお、今回は「首を切断」といった生々しい言葉が頻発してしまうことにご勘弁願いたい(今更)。

首を切断するために必要な力がそのままの値としてどこにも載っていない以上、何かしらの状況証拠のような形でかような力を算出する必要があるが、真っ先に思い浮かぶのは恐怖政治の象徴ギロチンだろう。適切な高さに設置されたギロチンは、重力による自由落下を経て、人間の首を切断する。ギロチンが持っていた位置エネルギーが人間の首を切断するエネルギーに転化するわけだ。そのため、ギロチンが持っていた最初の位置エネルギーを計算すれば、人間の首一般、すなわちチャーリーの首を切断するのに必要なエネルギーが求められることになる。そこでギロチンは高さ何mに設置されているのか、調べてみると

ともかく、ギロチンは全高は約5メートルほどで、首を挟む場所は地面から37センチメートルほどの高さにあり、ギロチンは4メートルの高さから40キログラムの刃が自由落下することによって首を切断する装置であった。(Wikipedia)

とのことらしい。この場合、ギロチンが最初に持っていた位置エネルギーは約1570J(ジュール)と算出される。過去に『ブラックパンサー』のスーツを考察した際に出てきた値と似ているが、1570Jは大体弾丸の運動エネルギーと同じである。正確にこう、とはいえないがこの辺りのエネルギーは最低人体を部分破壊するのに必要な臨界エネルギーなのだろう。かなりいらん知識である。

藪から棒にエネルギーを出してみたがこういう状況の際、必要になる量はどちらかというと運動量という物理量である。運動量は物体の速度に質量を乗じた値として定義されている。

まず、4mの高さからギロチンが落とされた数秒の後、首直前にまで落下したときのギロチンの速度は約9.0m/s=時速32.4kmと計算される。つまり命を刈る瞬間のギロチンが持つ運動量は360kg•m/sである。うーむ、はいそうですか、という値だ。ピンとこない。

とりあえず計算を進めよう。ギロチンと首の接触時間で運動量を割ることで、平均的にどれだけの力が首にかかってるかを算出することができる。仮に首との接触時間を0.5秒とすると、720Nだけの力が首にかかるということだ。ただし、ここで注意しなくてはならないのはギロチンと首の接触面積がとても小さいために、この程度の力でも切断が可能なのだ。身体を指で押されるのと、同じ力でコンパスの先で押されるのとでは当然後者の方が痛い。人体を破壊、ないしは切断するのに重要なのは「力」という指標では心許なく、むしろその「圧力」である。そう、電柱との激突で首がログアウトしたチャーリーの場合、(言わずもがな電柱はギロチンよりもはるかに接触面積が大きいため)必要とされる力はギロチンの場合よりも大きい、と予想される。このような効果を取り入れた上で必要な力を計算してみる。

ちなみにギロチン台にかけられた場合、自らを光の速度の大体4/5にまで加速すればローレンツ収縮が起こって命が助かることになるのは有名な話である。勿論、現実的には地球を置き去りにすることになる(そうじゃない)。

 

チャーリーの死は必然か

3秒で作った概念図

さて、問題のチャーリーのシーンは“charlie’s death scene”とでも検索すればいくらでも出てくるが、公式の動画ではないようなのでここで載せるのは控えておこう。ともかくこのシーンは観ていた人の度肝を抜いたシーンに違いないはずだ。別に私もあのシーンを見ながら首にかかる圧力をリアルタイムで計算してたわけではないので、ここで初めて計算をしている。ギロチンと電柱の表面積の違いを比として勘定した上で、計算を行うと大体ギロチンの0.27倍程度の力しかかからない、と算出される。

つまり電柱との激突の際、チャーリーの体重を50kg、電柱の有効表面積がギロチンのそれと比べて30倍(多分もっとある)と仮定した計算、多めに見積もった勘定の下でもチャーリーの首にかかる力は先ほどのギロチンによる力の半分にも満たない力であり(正確には圧力)、チャーリーの首を骨ごと引きちぎるには心許ないことがわかる。

そう!チャーリーの死は必然ではなかったのだ!ピーターが路上に横たわった動物の死骸を見て、咄嗟に避けるためハンドルを切ったのも、道路側の電柱にチャーリの首がジャストミートしたのも、芸術的に上手く首が外れたのも全てはおばあちゃんの計画通りだったのである。 信じられないくらい迷惑なおばあちゃんである。『ヘレディタリー/継承』はこれでもかというくらいに非科学、オカルトに振りまくった作品であるがために、この結論は逆に怖い。しかしあばあちゃんと悪魔ペイモンさん、これくらいのことが出来るんならこんな周りくどい殺し方をしなくてもと思ってしまうが、なんにせよ超自然的な力によってお亡くなりになったチャーリーのご冥福を祈って

なお今回のものに限らず私の記事における計算結果、結論を引用する際、プライベートの場合特に帰属先を示す必要はないので、己で思いついたかのように一緒に観た人にドヤ顔で説明するのもアリである!映画好きの方々の談義がより実ることを祈って…

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