【連載第1回】『インターステラー 』特殊相対性理論を学ぶ。ニュートンの力学とマクスウェルの電磁気学は仲が悪い──ガリレイ変換のその先へ

前回の連載から随分と時間が経ってしまったが、相対論解説の第1回に入っていこう。前回、相対性理論には「特殊」「一般」の2種類があると言ったが、今回からしばらくは「特殊」相対性理論を扱っていきたい。特殊相対論は2つの要請から成り立っていて、実は非常にシンプルな理論だと言うことも前回扱った通りである。

そしてこれも前回言ったように、私の連載を読んでくださっている人には、物理学科でなくとも体系的な理解を是非とも得て欲しいと思っている。特殊相対論は「時間が遅れる」とか「双子のパラドックス」とか面白おかしい科学小話が大量にあるだけあって、多くのサイエンス系一般書はそういった面白エピソードを紹介するだけに留まり、理論本来の流れの論理性が掴みにくいことも多い。そういう意味で今回の連載では理論が持つ真の論理性、その体系性を余すことなく解説していく立場をとっていこうと思っている。すなわち、今連載を読み解くために必要な力は数学力や物理力などではなく、むしろ論理力なのだということを念頭に置きながら読んでいくと、きっと楽しめるはずだ。

さて、実際に特殊相対性理論の導入に入るために、1つ言っておきたいことがある。それは「人間の感覚は当てにならない」ということだ。光の速度に近いスケールで物事を扱っていく上で、我々の日常的で素朴な感覚は全く当てにならないという事実には、目を背けてはならない。

2つの疑問

特殊相対性理論を扱うにあたって、まず最初に明確にしなければならない疑問が2つある。①特殊相対性理論は“なぜ”生まれたのか?”なぜ”必要だったのか?という本質的な問いと、②なぜ2つの原理が必要なのか?一体どこから光速度不変の原理の概念が出てくるのか?歴史的にはどういう経緯があったのか?という問いである。この2つを理解せずに相対論の中身を見ていっても、ゴチャゴチャした知識を得るだけで3日後にはその殆どを忘れてしまうだろう。

①について、まず物理学の理論というものは大局的に見ると、基本的に論理的な流れのもとで生まれる。いきなり意味の分からない高度な理論が、何処からともなく開発されることは滅多にない(無いわけではない)。特に特殊相対性理論は別にアインシュタインだったから思いついたわけではなく、歴史的にはその誕生は必然であったと言っても過言ではない。ニュートンの時代から物理学が着実に発展していくと同時に、次第に理論の綻びも露わになってきた。そうした「傷」を治すように、新たな理論が構築されていくのだ。天動説すら無かった時代に地動説は生まれないし、キリスト教が無かった時代に宗教改革が起こるはずがない。アインシュタインの特殊相対性理論は、まさに必要が発明の母になり、誕生したといえるだろう。そういった経緯をまず知っていく必要がある。

(それではなぜアインシュタインは”天才”の2文字の代名詞なのだろう。それは一般相対性理論の構築という業績がとてつもなく大きかったからである。当時の物理学にとって一般相対論は特に必要のないものであって、あれを完成させたのはアインシュタインの趣味や美学から来たものといえる。それにアインシュタインの名は統計力学などの他の分野でも数多く登場し、100年後の物理学でも大量のエッセンスが使われている。そして何より、彼には多くの人々を惹きつけるカリスマがあった。)

②について、これは特殊相対性理論が導かれた経緯を知ることで、2つの要請(原理)の本質的な意味を把握することが出来る。2つの要請の内容を真に体感することが出来れば、「時間が遅くなる」とかそういった不思議な現象は当然のこととして導かれることになるだろう(実際にそれが当然のことと”感じられる”かは別にして)。

 

力学と電磁気学 力学の基本法則

まず今回と次回は①について見ていこう。そして次々回に②を詳しく見ていき、特殊相対性理論の全体像を把握していく。そしたら第3回以降で具体的な現象を扱っていきたい(大物のローレンツ変換が待っている)。勿論最終的には『インターステラー 』の諸現象の解明を行なっていく(これを忘れてしまったら、連載が終わる頃にやたら相対論に詳しい読者さん達が爆誕するだけ!)

「力学」と口にすると大体嫌な顔をされることが多いが、「力学」にどんなイメージがあるだろうか?バネや振り子といったイメージを持っている人が多いかもしれない。勿論、それが正しい。

私が今回の連載で「力学」と言った場合、それらは全て「ニュートン力学」を指すことをここで先に言っておこう。「ニュートン力学」とはその名の通り起源はアイザック・ニュートンに遡る物理学の最も基本的な理論体系である。中学校や高校で習う「理科」を思い出せば、バネだとか振り子だとか万有引力がどうだとか、そんな計算をやらされた記憶があるはずだ。これらは全て「ニュートン力学」と呼ばれるものである。

力学が提示する自然界の法則は3つだけで、この3つの法則さえ受け入れれば、あらゆる現象は説明可能だ!、というのがニュートンの主張である。その「ニュートンの三法則」はこんな内容だ。

① 物体は外部から力を受けなければ、その速度は一定である。動いているものは動き続け、止まっているものはいつまでも止まっている。(慣性の法則)

② 物体の加速度は力に比例し、質量に反比例する。

③ 作用と反作用の大きさは等しく、逆向きである。(作用反作用の法則)

これら3つのうち今回の説明で最も重要なのは②の法則である。法則の内容としては至極当たり前のもので何を今更という感じがするが、これを数式で表すと以下のようになる。(力を加えられたものは加速する、当たり前だと感じるはずだ)

$$ma=F$$

これを運動の様子を表す方程式として、「運動方程式」と呼ぶ。高校で物理を選択すると、まずこの運動方程式を最初に習うことになる。運動方程式を実際どのように解いていくかをここで計算として示しても良いが、話が本質から逸れてしまうのでここでは割愛しよう。しかし、ここで理解しなければならないのは細かい計算の方法などではなく、「運動方程式を解くとはどういうことか?」ということである。

一定のリズムで振れている振り子を想像しよう。そして、そこで時間をストップ、想像した振り子を途中で止めてもらいたい。空中に止まった振り子の情報を整理しよう。まずその振り子には重力が働く。振り子は地球上に置いてあると仮定し、地球上の物体は全て重力の影響を受けると仮定しているからだ。他に振り子に働く力はあるだろうか?振り子が何か接触しているものはないだろうか?「空気」はどうだろうか?そう、空気は振り子と接触しているため、振り子は僅かながら空気から力を受ける。

ただ、振り子程度の大きさの物体ではこの空気から受ける力の影響はそう大きくならない。無視しても結果に差異はないだろうから、この際情報は簡略化して空気からの力は無いものと見なそう。つまり振り子の周りは「真空」だと仮定する。

そうすれば、時間を止めたその瞬間、振り子に働く力は重力と糸からの張力のみである。非常にシンプルな結果だ。さて、次は情報として振り子の質量という量が欲しい。今回は中々重い振り子を用意したとして、その質量は2kgだったとしよう。この「力」と「質量」の情報を使えば運動方程式が正確に書けることになる。

上で紹介した数式でいうと、右辺のF(力)と左辺のm(質量)が数値として分かったというわけだ。運動方程式はこの2つの情報から、残りの文字aつまり、物体の「加速度」をポンっと教えてくれる。「振り子の加速度は〜です」という具合である。加速度とは「1秒あたりの速度の変化」のことであるから、今時間を止めた振り子を1秒だけ進めると、その間の速度の変化は「加速度」の情報から既に予測出来ていることになる。そして速度とは「1秒あたりの(物体の)位置の変化」なのだから、次の1秒に振り子が一体にどこの地点に到達することになるのか、これも予め予測出来るというわけだ。

振り子がどんな運動をするかなんて予め分かってることなんだから、だから何だと思われるかもしれない。しかしここで大切なのは、振り子などでは無い。時を止めたある時刻の状況から、その1秒さき、そしてまたその1秒先と次々に未来の状況が分かったこと、つまり現在の状況から未来が予言出来たことが大切なのである。「ある瞬間の十分な情報さえあれば、未来は予言可能である」これがつまるところ力学、強いては物理学の最も根源的なモチベーションなのだ。

未来を正確に予言するのに仮定する必要がある最低限必要な法則を、基本法則と呼ぶ。力学は上のニュートンの三法則が基本法則で、特に紹介した運動方程式が最も本質的だ。基本法則の中でも、数式的に書かれた方程式を基本方程式と呼ぶことにしよう。未来を予言するのに必要な力学の基本法則は3つで、基本方程式は運動方程式の1つである、とまとめられるというわけだ。

力学と電磁気学 電磁気学の基本法則

電流や電圧、回路、磁石……そういったキーワードが出てくる分野が電磁気学である。これも力学と同様に基本法則と呼ばれる原理的なものまで説明を落とし込むことが可能だが、力学のように基本法則が1つだけ、というわけにはいかない。電磁気学の場合、マクスウェル方程式と呼ばれる4つの基本方程式にまとめられる。それが以下である。\begin{array}{ll}{\nabla \cdot \boldsymbol{B}(t, \boldsymbol{x})} & {=0} \\ {\nabla \times \boldsymbol{E}(t, \boldsymbol{x})+\frac{\partial \boldsymbol{B}(t, \boldsymbol{x})}{\partial t}} & {=0} \\ {\nabla \cdot \boldsymbol{D}(t, \boldsymbol{x})} & {=\rho(t, \boldsymbol{x})} \\ {\nabla \times \boldsymbol{H}(t, \boldsymbol{x})-\frac{\partial \boldsymbol{D}(t, \boldsymbol{x})}{\partial t}} & {=\boldsymbol{j}(t, \boldsymbol{x})}\end{array}

電磁気学では上の数式における、電場Eや電束密度D、磁場Hや磁束密度Bというものが本質的な量になる。「力学に比べて馴染みのない量だ。だから電気とかは好かん」と敬遠されることも多い悲しい電磁気学だが、とにかくこのEとBなどを時間的に決定することが電磁気学の至上命題、そうすれば力学のときのように予言が可能になる。何度も言うように、「未来を予測すること」=「予言すること」が物理学のモチベーションである。

力学とガリレイ変換

さて、話を力学に戻そう。簡単な相対速度の話をしたい。東向きに時速100kmで走っているニコラスの車を、マシューが東向きに時速80kmで追いかけたとしたら、マシューにとってニコラスの車は東向きに時速20kmで走っているように見えるはずだ。100から80を引いただけで、難しい計算は1つもない。これはつまり、言葉として整理するとこういうことである。

相手の見かけの速さ=(相手の速さ)−(自分の速さ)

ふむ、実にシンプルだ。実は、これはガリレイ変換と呼ばれる数学的な変換則でもある。最初、静止していたマシューの世界の見方から時速80kmで走行したときに見える世界へ移るための変換則、というわけだ。注意しなくてはならないのは、マシューが地面に対して時速80kmで走行して外を眺めているとき、ニコラスの車だけでなく、ありとあらゆる物が上の変換則を受けた形でマシューの目に見えることになる。地面に対して静止していたものは、動くマシューにとって時速80kmで遠ざかっていく。

物理学では、このように対象を様々な状況から見ることをよく考える。マシューが地面に静止しているときに見える世界、マシューが時速500kmでぶっ飛んでいるときに見える世界、マシューが螺旋状に地面を掘り続けさせられたときに見える世界、そろそろマシューが可哀想だが、そうした1つ1つの世界の間にある数学的な関係性を規定するものが、”変換”である。また、1つ1つの世界の見方を物理学者はと呼ぶ。

力学における系から系への変換則、ガリレイ変換の下で基本法則は内容を変えてしまってはいけな、と言われて納得出来るだろうか。先にやったように、力学における基本法則、すなわち運動方程式は「その瞬間の情報から次の瞬間を予測」するために使われる。この運動方程式を適用する際、マシューの見方にいちいち法則の内容が依存していたら、どれだけ馬鹿げたものだと言えるだろう!

よって物理法則はガリレイ変換に対して不変でなければならない。これは扱っている諸法則が基本法則と呼べるために最低限必要な条件ともいえる!

実際に運動方程式を紙に書いて、ガリレイ変換を施すと、その内容が変わらないこと、つまり不変性を示すことが即座に出来る。これで、とりあえず力学はガリレイ変換に対して不変であることが分かったわけである。さて、話の流れから分かるように次は何をするべきだろう?

電磁気学とガリレイ変換

これでマクスウェル方程式も、ガリレイ変換下での不変性が確認できれば、晴れてマクスウェル方程式も基本法則と呼ぶに値すると言えることになる。しかし……、結論から言うとマクスウェル方程式はガリレイ変換の下で不変でなく、法則の形式を変えてしまう…!これは全く問題である。マクスウェル方程式は電磁気学の基本法則として信じられてきて、実験でもその正当性は確認されているというのに、ガリレイ変換で内容を簡単に変えてしまうとは……。見損なったぞマクスウェル方程式!となる前に、もう一つの可能性を考えよう。

この議論の出発点は、「ガリレイ変換の下で基本法則は不変であるべきだ」という1つの素朴な仮定であった。しかし、これが間違っているとしたらどうだろう?実は最初から、相対速度の考え方そのものが間違っていたとしたら?

とはいえ、ガリレイ変換が間違っているというのは考えづらい。なぜなら我々が持つ感覚、経験と合っているように見えるからだ。

さて、ここで冒頭の言葉を思い出そう。人間の感覚というのは裄丈知れたもので、物理学をやっていく上では当てにしてはいけないものであった。そこで、思い切って思考をジャンプさせてみよう。ガリレイ変換が間違っていたのだ、と!

ガリレイ変換のその先へ

我々はどのような変換を探せば良いのだろうか?そう、力学の運動方程式も電磁気学のマクスウェル方程式も変えないような新しい変換を見つけなければならない!実はそのような変換は前から知られていて、ローレンツ変換と呼ばれている。このローレンツ変換は、力学と電磁気学の諸法則の内容を変えたりしない。まさに求めていた変換である。

ローレンツ変換がどのような変換で、一体どんな物理学的帰結が得られるのかは次以降の回で解説しよう。しかしここで大切なことは、車の例で見たように、ガリレイ変換という我々の日常的な経験に合った変換は正確には正しくないということである。そしてここまでくると特殊相対性理論の立ち位置が分かってくる。ローレンツ変換を土台とする特殊相対性理論は、力学と電磁気学の統合理論だ。2つの分野に属する基本法則を、どうにかして1つの分野に属するようにすることは出来ないだろうか?しかしよく見比べてみると、力学と電磁気学の法則は系の変換に対して異なった対応をしているように見える。これでは2つの理論を1つに統合することなど出来ない!その為にはどうしたら良いだろうか?

実はこのような発想、疑問から生まれた理論が相対性理論なのだ。アインシュタインは1905年に「運動物体の電気力学について」と題された論文を発表し、特殊相対性理論の説明を行なっている。論文を実際に読まなくとも、なぜそのような題名になっているか既に理解出来る筈だ…!

さて、正直、次回は何を扱っていこうか悩んでいるところだが、手っ取り早くローレンツ変換の説明を始めたいところである。しかしそのためには、時空図が書けるようになる必要があるので、先に4次元空間の捉え方の手法を伝授していこう。ひとたび時空図が書けるようになってしまえば、後は紙とペンを使って時空構造を調べていける。また、あくまで今回の第1回は特殊相対性理論に至る背景知識に過ぎないことに注意してほしい。まだ相対性理論の扉すら開けていない状態である。しかしこの導入の部分を、今回のように丁寧に行なっていくことが相対論の本質的な理解への1番の近道である。そうした地道な理解の数々の積み上げが、全く不思議な宇宙の深淵を覗かせてくれるのだ。

 

※ここまで読んだ辛抱強い皆様には以下の専門的な文が理解出来るようになっている。

「アインシュタインの特殊相対性理論は、運動する観測者が電磁気学的現象及び力学的現象をどのように観測するかを記述する、力学と電磁気学の統合理論である。一般にマクスウェル方程式はガリレイ変換の下で不変でない。そのため力学の運動方程式と電磁気学のマクスウェル方程式の変換の下での不変性を保つために、ローレンツ変換を導入する。この変換規則により、力学と電磁気学を統一的に扱うことが可能である」

 

1 個のコメント

  • 初めまして。
    インターステラーの考察記事から、この相対性理論のお話へたどり着きました。
    私は物理学を熱心に学んだわけでもない、普通のサラリーマンですが、とても楽しく読ませていただきました。
    小さな頃からSFが好きで、小学6年の自由研究は、宇宙誕生から地球に生命が生まれるまでをノートいっぱいにまとめることだった、そんな少年でした。
    インターステラーも何度も観ましたが、2019年になってまた違う角度から楽しめると思うと、ワクワクが止まりません。
    私はまさに、ありふれたサイエンス一般書を読み漁るようなタイプでしたが、「2つの疑問」の項で『私でも相対性理論の本質に触れられるかもしれない。』と感じました。
    専門知識ゼロの人間を惹き込む解説には、必ずツカミがあります。
    例によって本稿でも心を鷲掴みにされ、ここまでで浮かんだ疑問や理解出来ない部分も、この先で必ず解決するだろうと言う安心感を抱いています。
    次回の連載を心待ちにしておりますので、どうぞ、よろしくお願いいたします。

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