アメリカ最大のモーターカーイベント、NASCARレースを舞台に、一攫千金を狙った計画に挑む強盗団の姿を、アダム・ドライバー、チャニング・テイタム、ダニエル・クレイグらの共演で描くクライムエンタテインメント。足が不自由で仕事を失い、家族にも逃げられて失意の人生を送るジミー・ローガンは、まもなく開催されるNASCARレースのさなかに大金を盗み出すという大胆な計画を練る。戦争で片腕を失った元軍人で冴えないバーテンダーの弟クライドと、美容師でカーマニアの妹メリーを仲間に加えたものの、不運続きな自分たちだけでは心もとないジミーは、服役中の爆破のプロ、ジョー・バングに協力を求めるが……。(映画.comより)
今月11月18日に公開した今作『ローガン・ラッキー』は『マジック・マイク』のチャニング・テイタムにアダム・ドライバー、そして『007』のダニエル・クレイグという三人の主役級の俳優が揃うという強烈な(かつ無駄な)豪華さである。ソダーバーグの引退宣言後の四年ぶりの作品なわけであり、世間の期待から考えると驚きはしないが、今作を劇場で観終わった後に「あぁ、これ『トロピックサンダー』と一緒だ」と思いながらチャニングの足を悪くした歩き方を真似しながら帰ったわけである。
制作費1億ドル以上らしい、ぶっ飛んでるだろ。
日本ウケしない映画の象徴ともいえる2008年の「トロピック・サンダー(Tropic Thunder)」は果たして皆様の記憶にちゃんと残っているのだろうか。事実、興行収入は250万$というコケっぷり。そもそも当時受け入れた映画館が少なかった。
ベン・スティラーにジャック・ブラック、ロバート・ダウニー・Jr、さらに忘れちゃいけないトム・クルーズまで出てたってのになぜ日本での興行収入が振るわなかったのだろうか。簡単に言えばアメリカンジョークが多すぎるあまりにどのポイントで笑えば良いか分からなかった人が多かったからだろうが、ちょっと待てよ、この手の話はこれまでにもう何度もした気がするぞ。
そう、実際アメリカの映画は大国であるがゆえに自国だけで十分に収入がとれるためこの手の映画は非常に多い。それにまず世界の前に自国向けの映画を作るというのは当たり前のことだし日本もそうだろう。
東京国際映画祭で監督のソダーバーグはこのようなことを言っていた。
––「西洋のプロットは何が起きて、どんな理由があるかを重視する。対して日本映画のストーリーは流れ、つながり、関係性を重視する。この言葉(映画評論家ドナルド・リチーの言葉)に大いに刺激を受け、この両方を融合させる努力をずっとしてきたんだ。」––
ソダーバーグの最大の代表作である「オーシャンズ」シリーズはまさにこの言葉通りの作品ではないだろうか。数々の実力ある俳優がそれぞれの絶妙で味のある演技がストーリーを流れるように引っ張り、最後にはどんでん返しが待っていてきちんとその”からくり”も説明してくれる。
ソダーバーグの口から出たこの言葉は、彼が今までどのように映画に取り組んできたかが分かる言葉だ。
【お菓子で爆弾は本当に出来るのか?】
今作はソダーバーグのこれまでの作品のテイストとはやはり一味違う。例えるなら原宿のビガーバーガーとビレヴァンのハンバーガーくらい違う(分かりにくい)。登場人物の全員がオーシャンズのようにきらびやかで華やかな感じではなく、金も地位も名誉も無い。かつての作品とこのような違いがあるからこそソダーバーグは面白いと感じ、今作でメガホンを取ることを決意したようだ。
しかし本心を言うと、『ローガン・ラッキー』にはさほどソダーバーグらしさを感じられなかった。というのは先に引用した西洋映画におけるプロットの特色を活かしきれていなかったと感じたからだ。
チャニング・テイタムらが強烈に放出する甲斐性無しっぷりがソダーバーグ作品恒例のラストシーンにおけるトリックのネタバラシ大会がショボいものになってしまった。ゴミ箱に入れてたからなんとかなりましたというオチは僕には結局良く分からなかった。
さて本題に戻ろう。ダニエル・クレイグ演じる爆発師の異名を持つジョー・バングはなんと市販のお菓子で爆弾を作っていた。そして彼はそれを「高校の化学」だと説明していたが‥本当にお菓子なんかで爆弾が作れるのだろうか?無理だと思うかもしれないが案外そうじゃないかもしれない。おばあちゃんが孫のためにお菓子を買って家に持って帰る途中、あぁそうだTシャツのためのブリーチペンも買っていこうと袋に突っ込んだところで袋が破れてしまい全てのお菓子が混ざりそして爆発しおばあちゃんも爆散。そんな悲劇が起こる前に一度科学的に考察してみよう。
☆必要なレシピ☆
①ブリーチペン Bleach pens→次亜塩素酸ナトリウム
日本語でなんて言えば良いのか調べても出てこなかったので「減塩の塩」とした。普通の塩を買ってきてはいけない。減塩の塩には塩化カルシウムの他に塩化カリウムも入っているからだ。この塩化カリウムが反応に必要になる。また、序盤にジョーがゆで卵を食べてたのも伏線になってたわけだ(世界一どうでもいい伏線である)。
③グミgummy bears→有機物
さてとこれら3つを買ってきてポリ袋に突っ込めば爆弾の完成だ。化学的に説明するとブリーチペンは次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)として、減塩の塩は塩化カリウム(KCl)として化学反応を起こす。そして塩素酸カリウム(KClO3)が出来上がり、そこにスパイスとして有機物のグミを投入すれば晴れて爆弾が出来上がるというわけだ。
実はこの反応は化学の世界では非常に有名な反応である。子どもを楽しませる実験としてyoutubeで探せばいくらでも見つかるだろう。ただし塩素酸カリウムは非常に危険な物質なので扱う際には注意が必要だ。ちなみにマッチなどに使われる。
しかしこのままでは仮想のおばあちゃんが爆散したままだ。今挙げた3つのモノを混ぜ合わせることで塩素酸カリウムを作ることは理論上はギリギリ可能かもしれない。しかし問題となるのは濃度だ。
次亜塩素酸ナトリウムとして機能させようとしたブリーチペンは90%以上は水分で出来ていて、肝心の次亜塩素酸ナトリウムは全体の6%程しかない。実際の化学の実験場では純粋な次亜塩素酸ナトリウムを使い実験をするわけで、不純物が大量に含まれているブリーチペンでは上手くいくはずもないのだ。なぜなら混ぜ合わせても結局出てくる大半は水だからだ。
それに塩化カリウムとして使った減塩の塩も微妙だろう。こいつも塩化カルシウムを含んでいるだろうし、不純物は化学の世界には入れてもらえないのである。
よって結論としてはお菓子で爆弾を作るのは実際無理だ。純粋な次亜塩素酸ナトリウムでお菓子を作ればいいだろうけどそれはもはやお菓子じゃないし店じゃ買えないだろう。つまりここの部分は映画の中だけの化学ということになるが、実際に子どもが真似しても危ないだろうし、そもそもここの部分は作品全体の中で重要とは言えないシーンだ。こんなにも気にしたのは日本中で僕だけかもしれないが、観る前にこんな考察をしても面白いかなと思う。
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