『ブラックパンサー』のスーツを科学的に考察する。弾丸の運動エネルギーは本当に吸収出来るか?

1966年6月に出版された『ファンタスティックフォー』52号に初めての登場を果たしたブラックパンサーはその後半世紀近く以上の歳月を経て『キャプテンアメリカ シビルウォー』で実写化を果たした。(子供の頃から実写化を待ち続けたブラックパンサーがついにこうして3次元になってくれて‥本当に嬉しい‥。)

皆さまも今作『ブラックパンサー』を観てお気づきのようにブラックパンサーはあんまり強くない。秘密の庭に生えてる謎のハーブを飲むと強靭的に強くなった‥という設定のブラックパンサーだが、車と同じ速度で走れるキャプテン・アメリカと同じレベルくらいの身体能力に過ぎない。(ちなみにこの時点で既に相当感覚が狂っている)

シビルウォーの爆破テロによって父ティ・チャカが死んだことによりティ・チャラは王位を継承し「ブラックパンサー」となったわけだった。シビルウォーでは父ティ・チャカのスーツを使用していたわけだが、今作ではそのスーツが新しく新調される。世代の交代というテーマを主張すると同時に、ワガンダの持つ科学力をよりアピールするために映画的にもさらにハイテクノロジーなスーツを着る必要があったからだろう。

ティ・チャラの妹シュリに作ってもらった新しいスーツには様々な新性能が搭載されていた。その新性能の中に極めて画期的なものがあった。「運動エネルギーを吸収し、溜めることが可能。さらにそれを放出することが出来る」というものである。

 

運動エネルギーの吸収のメカニズムの解明①運動エネルギーとは何か?

ブラックパンサーのスーツは運動エネルギーを吸収するらしいが、まず吸収云々について考える前にそもそも運動エネルギーという言葉を明確にすることから出発しよう。そもそも運動エネルギーとは何だろうか?

ニュートン力学において定義される物体の運動エネルギーとは(物体の質量)×(物体の速度)×(物体の速度)を2で割ったものである。例えば今手に44マグナム銃を持っていると想像して欲しい。マグナム銃から発射された銃弾の速度はどれくらいだろうか?厳密に考えれば発射された直後から弾丸は空気から抵抗を受け減速していく。今はあくまで運動エネルギーについて考えることが目的なので速度は減速しないものと仮定しよう。

さて、発射された銃の速度は‥44マグナムの場合450m/sほどらしいのでこの数値をとりあえず使おう。次に弾丸の質量は15gほどだとして話を進めよう。それでは先の運動エネルギーの定義の式に代入し、運動エネルギーを実際に求めてみる。

0.015×450×450=3037.5J(単位はジュール)

上の計算結果を2で割り、弾丸の持つ運動エネルギーは約1500Jと分かったわけだ。しかしこの数値が一体何の役に立つのだろうか?

②スーツが弾丸によって受ける衝撃力を計算する

実は電気のエネルギー、化学的エネルギー、位置エネルギー‥というようにエネルギーには様々な形態が存在する。そしてそれらエネルギーは互いに変換することが可能である。

例えば太陽光発電などは太陽からの光のエネルギーを電気エネルギーに変換しているし、蓄えた電気エネルギーを使って運動エネルギーに変換することで電気自動車を動かすことが可能である。このようにエネルギーはその形を変えながら流動的に動いていく。変換の過程で余計な熱になってしまったりとエネルギーが逃げてしまうことはあるだろうが、それも総量に含めて計算すればエネルギーが勝手に消えてしまうことは無いことに注意しよう。

ブラックパンサーのスーツに弾丸が1500Jの運動エネルギーを持って当たってくるとしよう。弾丸はスーツに跳ね返った後は確実に減速しているだろうから跳弾直後の弾丸の運動エネルギーが仮に500Jになったとすると、差の1000J(失われたエネルギー)はどこにいったことになるのだろうか?答えは単純で、ブラックパンサーのスーツが”もらう”ことになる。”もらった”1000Jのエネルギーをありがたく吸収してしまえば話はここで終わるのだが、事はそう単純では無い。普通この1000Jはスーツを破壊することに費やされる。スーツを構成する分子などの結合状態を変えたり、振動させたりして熱エネルギーに変わることもある。

車と車の衝突ならば衝突直前直後に失われたエネルギーは衝突の衝撃力として使われる。しかしブラックパンサーのスーツは運動エネルギーを吸収して溜めることが出来るのだから‥この1000Jが変形のエネルギーや熱エネルギーに変換されないようにしなければならない。

さて‥どうしようか?

③運動エネルギーの変換先を考える

これには僕もちょっと頭を抱えた。う〜んどうしようか‥と考えたところで最初に思いついたのはバネだった。

 

左からバネめがけてボールが衝突しにくるとしよう。ボールとバネが衝突するとバネは縮み始めボールは次第に減速していく。そして最終的にボールは静止するが、このままだとバネは伸び始めボールが再び飛んでいってしまうのでこの状態をキープしておこう。

 

きっと僕の言いたいことはもう理解出来たはずだ。このバネとボールの運動機構はエネルギーの変換機構である。ボールが持っていた運動エネルギーはいつのまにかバネが持つエネルギーになったのである。バネが持つエネルギーのことを弾性エネルギーと呼ぶが、要するに運動エネルギーの変換に成功しているわけだ。

このことを応用すればブラックパンサーのスーツの説明は多少出来るんじゃないだろうか。弾丸の失われたエネルギー1000Jは上手いことスーツの中のバネに蓄えられそれをホールドすることが出来る。そしてひとたびその固定を解除すればバーン!と衝撃が拡散される‥という説明はどうだろうか‥?

納得がいかない?だってスーツの中にバネが入ってるなんてそんな簡単な構造なわけが無いだろう。‥という風に思うのは最もである。しかし別に僕はスーツの中に単純なバネがいくつも入っているだけだという風に説明しているわけではない。そもそも単にバネを入れただけでは横からの攻撃が吸収出来ない。こんな3秒で考えたスーツであんなことが可能なはずが無い。というかあんなにもカッコいいブラックパンサーが実はスプリングマンだったら僕は嫌だ。

バネ構造というのはあくまで原理的な話である。例えばこのバネ構造が原子レベルでこの構造だったらどうだろうか。外部からの衝撃を原子レベルのバネが吸収し保持する。エネルギーを放出したいときはバネの保持力を解放すれば良い。言ってることはまるで変わらないが、原子レベルでこの原理が成立すればブラックパンサーのスーツは可能かもしれない。(金属ヴィヴラニウムだけに可能な加工なのかもしれない。)

 

さて運動エネルギーを弾性エネルギーに変えるのではなく、電気エネルギーに変えて保持するという方法も思いついた。圧電効果というのを利用する。

圧電効果とはある特定の物質に圧力を加えると、圧力に比例するだけの分極という現象が起こり、電流が流れる効果のことを指す。要は押したら押した分だけ電流が流れるということだ。ライターやスピーカーなど様々なものに圧電体は応用されている。

スーツ全体を圧電体のようなものと考えれば、弾丸によって加えられた力を電流(正しくは電圧)に変換し保持する。こんな方法もバネとは別に考えられる。

まとめると

 

運動エネルギー →①弾性エネルギーor②電気エネルギー

この2つのどちらかに変換する機構をスーツが持っていると考えることが出来るというわけだ。

 

立ちはだかる作用・反作用則

誰かの顔面を思いきり殴ったときの力を100だとすると、必ず殴った自分の腕にも100だけの力が返ってくる。このような法則を作用反作用の法則と呼ぶのだが、困ったことにこの法則があるおかげでブラックパンサーが溜めた力を解放するときに問題が生じてくる。

先に解説したどちらの原理にしろブラックパンサーのスーツは溜めたエネルギーを解放する必要がある。

ちょうどこんな具合にエネルギーはカッチョ良く解放されるが、外に解放しただけと同じ力の分だけブラックパンサーは内側に力を受けることになる。つまり痛い。これはパンサーがかわいそうなので打開策を考案しよう。作用反作用則を覆すのはどう足掻いたって土台無理な話なので、そこを逆に利用する。エネルギーないし力の放出を完璧な球状にすれば良いんじゃないだろうか。エネルギーの放出が完璧に対称的な球分布となれば、その反作用は全て打ち消しあう。こうすればエネルギーの放出問題は解決出来そうである。

 

そういえばこのシーンでパンサーが車をペシャンコにし、その反作用で飛んでいくようなシーンがある。予告編でも使われたカッコよすぎるこのシーンは実は結構科学的だったんじゃないだろうか。

 

まとめ

運動エネルギーを吸収すると説明されていたこのスーツは運動エネルギーを何か別のエネルギーとして変換し蓄える必要があることが分かった。変換先のエネルギーとして考えられるのは①バネの弾性エネルギー②圧電体の電気エネルギーである。また放出する際にはなるべく対称に放出することで反作用を打ち消し、ダメージを受けないようにする必要がある。そして反作用を上手く使えば高くジャンプしたり(というより吹っ飛ぶ)、素早く動くことが可能になりそうである。

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