「イミテーション・ゲーム」のアラン・チューリングは一体何に閃いたのか?【エニグマ暗号解読編】

暗号には様々な種類があるが、ひとつ有名な暗号をまずご紹介しよう。

XJNN ZPV NBSSZ NF?

という暗号が突然付き合っている彼氏からメールに送られてきたとしよう。さて意味が分かるだろうか?いきなり言われても何のことか分からないはずだ。しかし「何言ってんの?」と返信する前に少し立ち止まって考えれば解読に繋がるかもしれない。

センスがある人ならばアルファベットをひとつズラしてあげれば良いと気がつくだろう。こんな風に‥。

XJNN ZPV NBSSZ NF?

WILL YOU MARRY ME?(結婚してくれますか?)

という原文が浮かび上がってくる。つまりXをアルファベット順に後ろにひとつズラすとWになり、Jをひとつ後ろにズラしてIにして‥と全てのアルファベットをひとつだけズラしてあげることで意味のある文章になるわけだ。

この暗号はシーザー暗号と呼ばれる単純な暗号だが、暗号解読をしていく上で非常に大切な概念を学ぶことができる。それは暗号を解くには鍵が必要だということで、この場合は「アルファベットをひとつ後ろにズラすこと」が鍵だと言える。それをBはAに、AはZにズレていく‥ということからAのズレを基準にして鍵字はZと言うこともある。つまり鍵字がBならば暗号文をアルファベット順に前にズラすと解読することが出来るということだ。

ちなみにこんな暗号で結婚を申し込んでくるやつとはキモいのでブロックした方がいい。

 

 

今作「イミテーション・ゲーム」は当時絶対に解読は不可能と言われたドイツナチスの暗号機「エニグマ」を打ち破った天才アラン・チューリングの物語を描いたものだ。Dr.ストレンジみたいに魔法でエニグマをぶっ壊してしまえばいいけども、そんなおふざけは一切ない(当たり前)系の真面目映画だ。

「イミテーション・ゲーム」はかなり難しい。ちょっと集中を切らすと「いやお前なにゆうてんねん」状態になること間違いない。実際今作の最期の方、アラン・チューリングが「それだ!」みたいな顔で閃いて一瞬でエニグマを解読してしまうシーン‥理解出来ただろうか?

 

このシーンで「いやお前なにゆうてんねん」状態になってしまった人は多いはずだ。他にもチューリング・テストについてだとか様々に難解なものが含まれているが、今回はこのエニグマの解読方法について考えていきたい。

 

先のアルファベットをひとつズラすシーザー暗号(ひとつでなくても良い)は鍵字が一つなので単一換字式単語と呼ばれることがある。単一換字式暗号は400×10の23乗個以上もの組み合わせがあるので、破るのが難しい‥わけではない。全てのパターンを総当たりしたら途方に暮れてしまうが、そんなことをしないでも頻度分析という手法を取れば直ぐに解けてしまうことがある。

英語は頻繁にEが使われる、この事実を使えば送られてきた単一換字式暗号(ある程度十分な長さが必要)が使われた暗号文の中で最も使われている文字がEと瞬時に分かる。シーザー暗号であればEに対応するアルファベットが分かった時点で暗号文は完璧に解読可能だ。Eと同じ分だけズラせばいいからね。(Eだけにね☆)

多表式換字式暗号

シーザー暗号は簡単に破ることが出来てしまった。これでは戦争時の通信手段としては使い物にならない。「今からここに上陸しまーーす!!!わっしょい!!」って叫びながら戦争に向かうようなものだからだ。

単一換字式暗号は鍵字がひとつだったことが問題だったわけだから、鍵字を一文字ずつ変えていく方式を取った方が良さそうだ。これを多表式換字式暗号と呼ぶ。

多表式換字暗号にも様々なタイプがあるが、鍵字が文章になっているものが分かりやすい。どういうことかと言うと例えば鍵字を「MOVIE」にして、HOUSEを暗号化したいのならば

HOUSE

MOVIE

⇩暗号化

TCTAI

となる。Hを鍵字Mとしてズラすと、TになりOを鍵字Oとしてズラすと‥というように先のシーザー暗号の手法を各文字ごとに採用したものが多表式換字暗号である。そして‥これを応用したものが暗号機エニグマである。

 

暗号機エニグマの最強たる所以

多表式換字暗号の鍵字がHOUSEのように単語になってしまうと、頻度分析で案外簡単に破ることが出来てしまう。しかし原文と同じ長さの鍵字を使うと破るのが途端に難しくなるのだが(頻度分析が効きにくい!)、その手法を採用した暗号機のことをエニグマと呼ぶ。

エニグマ暗号機は文字を打つたびに違う文字に変換してタイプしてくれるタイプライターのようなものだ。幾つもの円盤状の歯が噛み合って出来ていて、プラグボードに差し込むプラグの位置を変えるだけで「鍵」を簡単に変えることが出来た。ドイツ軍は受け取った暗号文を連絡された位置にプラグを刺しておくだけで、暗号文を簡単に復元することが出来たのだ。暗号の送受信は極めて簡単で、かつ第三者解読は不可能となると戦争時こんなにも魅力的な道具は無かっただろう。そういうわけでエニグマはナチスドイツ減で瞬く間に利用された。第一次世界大戦の際、単一換字式暗号を使っていたドイツ軍は当時のフランス軍に暗号を解読されてしまっていた。今回こそは大丈夫と確信させたのがエニグマだったわけだ。

 

エニグマの誤算 アラン・チューリングの存在

エニグマを解読するために作られたのがクリストファーという暗号解読機械だ。しかし大仰な形をしたクリストファーでさえもエニグマの暗号は(確かめる数が多すぎて)解くことは不可能だった。高速化を模索ようとも、ドイツ軍はすぐにプラグ位置の修正を行い振り出しに戻ってしまう。チューリングが何度も失敗をしていたシーンはエニグマの解読に成功する前にドイツ軍が暗号鍵を変えてしまうという意味なのである。

チューリング達は息抜きにパブへ向かう。チューリングが閃いたシーンだ。ヒューが口説こうとした女性は「毎日同じドイツ軍の通信を傍受しているうちにその男性に恋をした。でもその男性には恋人がいる。だって毎回彼女の名前を三回も繰り返すんだもの。」と言ったところでアランは閃く。暗号文の中で必ず含まれている単語に着目すれば解読をするのに試す必要のある通り数は格段に減るということに閃いたのだ。つまり頻度分析の単語バージョン、それも必ず入っていると分かっている単語をもとにしたものだ。必ず入っている単語とは。’天気’といった言葉や’ハイルヒトラー!’といった言葉だ。これらの言葉を復元できるような暗号文を見つけ出し、エニグマのプラグ位置を逆算する——これがチューリングがエニグマを破った方法である。

エニグマの暗号を解読したあとのチューリングの葛藤、チューリング・マシンについてはまた別の話であって、これはこれでしんどい程に話は深い。なので今回はエニグマ編としたが、次はチューリングマシンについて書いていきたい。(真面目な映画だとふざけるポイントが少なくて大変…)

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