【理系考察】「瞬間移動」は死んでも会得したくない3つの理由。『X-MEN』『ジャンパー』『ウォッチメン』‥etc.


誰しもが子供の頃に瞬間移動の力、つまりテレポーテーションを会得したいと、そう思ったことがあるはずだ。実際、健気な子供心を持った大人たちが、SF映画、アニメ、漫画、小説‥といった作品の中で瞬間移動の能力を数多く登場させている。パッと思いつくだけでも、「ドラゴンボール」の孫悟空(ヤードラット星人に瞬間移動の能力を教えてもらった)、「X-MEN」のナイトクローラー、「ドラえもん」のどこでもドア(瞬間移動とはやや異なるが)、「ウォッチメン」のDr.マンハッタン、テレポーテーションの能力を持った主人公の物語をかいた「ジャンパー」やSF映画「スタートレック」などの転送に近いともいえるテレポーテーションなど、とにかく枚挙にいとまがない。

瞬間移動を会得することが出来たら、貴方は何をするだろうか?「ジャンパー」の主人公がやったように今すぐにでも銀行の金庫の中に瞬間移動し、両手に抱えられるほどの現金を持って逃げてやろうと画策するかもしれない。いやそんな使い方はリスクが高すぎる、パラディンに追われたらどうするんだ!と思う人は瞬間移動の能力を怪しまれない程度に密かに使っていくかもしれない。しかし瞬間移動の能力をどう使っていくにせよ、その能力が便利なものには変わらないだろう。現在の科学技術では到底実現不可能といえる瞬間移動の能力は、皆が喉から手が出るほどに欲しい大変魅力的な能力、といっても言い過ぎではない。

ただ僕なら、瞬間移動の能力は別段欲しくもない。理由は単純で、とても使えたものではないからだ。映画や漫画作品で瞬間移動が上手くいっているように見えるのは、かなり都合のいい能力なのか、我々の住む世界とは異なる物理法則を持っているかのどちらかである。

というわけで、今回はなぜ瞬間移動をするのがあまりオススメとは言えないのかを説明していこう。

問題点①地球は自転している

運良く瞬間移動の能力を会得したとしても、試してみる前にちょっとひとつだけ疑問を投げかけてみてほしい。

「瞬間移動前の状態は、移動後に引き継がれるのだろうか?」

これが解決しないことには瞬間移動はまだしない方がいい。もちろん、どちらにせよやってみなきゃ分からない話なのだが、とりあえず上の疑問に仮定をもって答えてみよう。まず最初に、移動前の状態が移動後に保持されなかった場合を考えてみる。(たとえば「X-MEN」に登場するアゼーゼルの瞬間移動は明らかに移動前の運動状態は保持されていない!)

たとえば全速力で前に向かって走っているときに、瞬間移動の能力をパチっと発動してみたジョージ君がいたとしよう。10m先に瞬間移動の照準は合わせるとして、このとき走っていたときの速度は移動時に消えてしまい、瞬間移動後の”着地”は静かなものになる──と仮定してみる。もしこんな瞬間移動がこんな能力だったら、間違っても使ってはいけない。使ったら最後、ジョージ君は時速1670kmもの速さでぶっ飛んでいき、愛する人と別れを告げることになるからだ。

答え合わせはするまでもなく、もうお気づきのように、時速1670kmという速さは地球の自転速度である。普段日常生活を営んでいると、地球が回転しているのを忘れてしまいがちだが、宇宙から見れば地球は物凄い速さで回転していて、我々は高速で回転するメリーゴーランドに乗って暮らしているようなものだ。もしも瞬間移動が移動前の状態を引き継がない能力ならば、自身がもっていた地球の自転速度もかき消してしまうはずである。家で優雅に紅茶をすすっていたのに、次の瞬間ボーイングの旅客機の翼の上に突然移動するみたいなものだ。たった10m先に瞬間移動したいだけなのに、移動した瞬間時速1670kmの突風が全身をひっぱたく。もちろん、ぶっ飛ぶ。そりゃとんでもないくらいにぶっ飛ぶ。

だから銀行強盗は間違いなく上手くいかない。「ふふふ、瞬間移動の能力を手に入れたぞ‥。これで俺は億万長者だ!どれ、手始めに銀行の金庫にでも移動してみるか‥」と思って近くの金庫に瞬間移動しても、金を盗む暇など全くない。悲しいことに銀行は突然金庫が爆発する謎の惨事に巻き込まれることになる。

瞬間移動するたびいちいちこう↑

いくらなんでもこんな能力では使いものにならないので「瞬間移動前の状態は、移動後に引き継がれる」と仮定した方が良さそうだ。しかしそれでも問題点が残っている。地球は自転しているだけではない。そう、公転もしているのだった。

問題点②地球は公転している

地球は太陽の周りを公転しているが、その公転速度は自転速度とは比べものにならないほど速く、数値にして時速約86万kmである。マッハにして87くらい、もうなんか比較することも出来ない速さである。これがどう、瞬間移動に関係するのかと疑問に思っておられるかもしれないが、単純に地球はその場に静止しているわけではないのだ。つまり、瞬間移動で10m先に移動したらどうなるだろうか?

瞬間移動とはいえ、大抵移動には時間がかかっている。「ジャンパー」にせよ、悟空にせよ、一瞬で移動しているが、あくまで”一瞬”である。仮に瞬間移動に要する時間が0.1秒だったとしよう。きちんと目的地に着くことが出来るだろうか?

悲しいことに、0.1秒の間で地球は約3kmも横に動く。なので瞬間移動に0.1秒もかけてしまうと‥着地点は横に3kmずれることになる。

「あ〜なんかお腹すいたなあ。冷蔵庫になにか入ってるかな。よし瞬間移動しちゃおう。よっと!」と軽い気持ちで瞬間移動したのに、多分着地点は自分の家から二駅隣くらいにある誰か知らない人の家になる。「どこ‥?」と思うだろうし、瞬間移動された家の人からすると「誰‥?」と思うだろう。

言うまでもなくこんな能力では使いものにならないのだが、実は他にも問題点が残っている。なんと解決したと思っていた、自転の問題が再び顔を出してくる。

問題点③続編〜地球は自転している II

①と②の問題点をどうにか解決したとしても、どうしても1つ問題が残ってしまう。それが遠距離の瞬間移動は不可能という問題だ。

ついさっき、地球の自転速度は時速約1670kmと言ったばかりだが、この値は地球のどの地点にいるかで大きく変わる。コマを思い返せば分かるように、中心付近の回転速度は遅く、中心から離れれば離れるほど回転の速度は速くなる。地球の場合も同様で、中心から最も離れた地点、つまり赤道地点で時速約1670kmの自転速度をもつが、北極や南極付近では殆ど自転速度がない。

家から近所のスーパーまで瞬間移動するくらいのスケールであれば、多少の抵抗のようなものを感じる程度で、地球の自転速度の差異は無視できるレベルだろう。ところがどっこい、海外旅行を思い立って日本から赤道上のまでひとっ飛び瞬間移動したとすると、また悲惨な事態が予測される。

残念ながらこんな長距離を一瞬で移動してしまえば、地点による自転速度の違いは無視できなくなる。日本(東京)の自転スピードはマッハにして約1.1マッハで、赤道上の〜は約1.6マッハであり、その差は0.5マッハ。瞬間移動による夢の海外旅行は、容赦なく今回もスタートから約マッハ0.5の爆風に叩きつけられることになるのだ(本日2度目)。

まとめ 正しい瞬間移動の仕方

ここまでの反省を活かした、正しい瞬間移動の仕方を説明しよう。「X-MEN」のアゼーゼルのような「移動前の状態が引き継がれない」タイプの瞬間移動は問題点①で明らかにしたように論外としても、問題点③は地球が回転している限り回避することが出来ない。そこで結論をシンプルに言うと、「長距離の瞬間移動は諦めて、数10km以内の瞬間移動だけを行う」という制約を能力者は守るべきだ、とまとめることが出来る。爆風にさらされるため、一瞬で日本からエジプトに移動するとかは出来ない。海外旅行をしたいときは10駅くらいの距離を移動しながら、コツコツ進むのがいいだろう。ちょっとカッコ悪いが、一歩間違えれば死に至るので(地球の公転も忘れないように)、細心の注意を払いながら瞬間移動を発動していくのが大切だ。

今思いついたが、同緯度地域であれば地球の回転速度は同じになるので、同緯度地域への瞬間移動ならあまり問題が無さそうだ。そして高緯度地域へ移動したい場合は、少しずつ緯度を上げていくように移動していく。そうすればいつか目的地に五体満足で着けるはずだ。

 

さて、「瞬間移動は死んでも会得したくない理由」、お分りいただけたであろうか。瞬間移動という夢のアビリティーは、惜しくも現実の物理法則がそれを許さなかった。しかし、だからこそフィクションに価値があるともいえると思うのだ。

 

「進歩すればするほど、単純な遊びが必要になってくるんだ」 ――『スタートレック』カークより

4 件のコメント

  • 瞬間移動のリスクなんて考えたこともありませんでした!面白かったです!
    かんけいありませんが、今回の記事を読んでタイムマシーンのことについて少し考えました。もしタイムマシーンがあったとして、1時間前の地球に、その場に戻ったとしても、地球は公転しているからそこに地球はなく、宇宙空間に放り出されるっていうことですよね。
    なんか少し考えるだけでロマンに綻びが出てきて面白いような悲しいような…

    • コメントありがとうございます(^^)
      お楽しみいただけたのなら幸いです!

      タイムマシンについてですがまさにその通りでして、やはり時間軸だけでなく空間軸方向にも移動しなければならないので、これも未解決問題として有名です。そもそもタイムマシンの開発に関しては問題はこれだけでなく、多くの未解決問題(負の質量を持つエキゾチック物質が必要、など‥)が残されていて、タイムマシンの開発よりも人間の絶滅の方が早いのではないかと私は思っています。(それか仮想現実の世界で実現するかどちらかだと思っています。)

      しかしだからこそフィクションに存在意義があるのかなとも思えます。科学が「不可能」と断定するようなことであってもサイエンスフィクションは私達にありありと夢をみせてくれるわけですから‥!

      またタイムマシンに関してもバック・トゥ・ザ・フューチャーの記事で解説してますのでよろしければそちらもお楽しみください(^^)

  • 楽しい考察ありがとうございます。
    よせばいいのに、結局は理系が働かない頭なので、慣性の法則はどう絡むのだろうか、などと考え始めたらこんがらがってしまいました。
    先日発売された伊坂幸太郎さんの『フーガはユーガ』という小説は双子の兄弟が瞬間移動する話なのですが、こちらの考察とはまた違った角度からユーモラスな発想で、なるほど、そういう問題もあるな、と想像力を刺激してくれます。未読でしたらおススメです。

    • 琥珀様、コメントありがとうございます(^^) 瞬間移動のこの問題は私が小学生のときから気になっていたことで、やっとここで文章にすることができ、とても感慨深い気持ちです。どうせならと、量子もつれの話も加えようとも考えましたが今回は割愛しました。

      『フーガはユーガ』‥!まだ未読ですのでちょっとチェックしてみます。ちょうど長かった大学の試験も終わり時間が出来たところなので(返信が遅れて申し訳ありません)、早速明日買って読んでみます‥!楽しみです。

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